賃金要件の撤廃と企業規模要件の撤廃

賃金要件の撤廃と企業規模要件の撤廃

税理士の堀です。所得税の『年収の壁』に加えて、社会保険にも大きな動きがありそうなので、情報をまとめてみました。

2025年の通常国会に「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(年金制度改正法案)が提出されました。今後、国会での審議が始まりますが、注目度の高い内容となっているため、法案段階ではありますが、法案内容で企業実務に大きな影響がある点について、数回の連載で確認していきます。

 現状、社会保険の適用事業所に勤務する従業員は、役員、正社員のほか、パートタイマー・アルバイト等でも、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数(以下、週所定労働時間等)が同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である人は、被保険者になります。

 また、週所定労働時間等が正社員の4分の3未満であっても、50人を超える適用事業所に勤務し、以下の要件を満たす人は、短時間労働者として被保険者になります。

①週の所定労働時間が20時間以上あること
②所定内賃金が月額8.8万円以上であること
③学生でないこと
 今回の年金制度改正法案では、このうち②の賃金要件を撤廃するとともに、「50人を超える適用事業所」という企業規模要件について、10年かけて段階的に対象を拡大。最終的には、すべての適用事業所が短時間労働者として社会保険に加入する内容になっています。

 なお、②の賃金要件は、全国の最低賃金の引上げの状況を見極めて、3年以内の廃止という内容であり、施行日は「公布から3年以内で政令の定める日」という内容になっています。

健康保険・厚生年金保険に新たに加入することで負担することとなる社会保険料は、かなり大きなものです。そのため、社会保険に加入することを避け、労働時間を短くするいわゆる「就業調整」を行うパートタイマー等がいることも事実です。

 そのため、前回取り上げた企業規模要件の見直しなどにより、新たに社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象となる短時間労働者について、短時間労働者が負担することとなる社会保険料の一部を企業が負担することで、社会保険料の負担を軽減できる特例的な措置が盛り込まれています。なお、企業が追加で負担した保険料については、国などがその全額を支援することになっています。

 また、この措置は標準報酬月額が12.6万円以下の従業員に対し、3年間適用されるものとなっています。

法案が成立したときには、制度の詳細を確認し、パートタイマー等の就業調整が発生することで人手不足にならないような対応が必要になります。

社会保険には、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)が適用事業所として加入することになっています。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所(個人事業所)についても、法律で定める17の業種を除いて適用事業所となります。個人事業所で適用事業所とならないのは、農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等が挙げられます。

 今回の改正法案では、これまで加入が任意となっていた業種の、従業員が常時5人以上いる個人事業所について、2029年10月以降は適用事業所となることが盛り込まれています。この際、経過措置として、施行時にすでに存在する個人事業所については、当面期限を定めず適用除外という内容になっています。

 また、5人未満の個人事業所については引き続き、適用事業所とはならず、会社と従業員とで合意したときには、任意で適用事業所となる任意包括適用の制度の対象となります。

[参考]
日本年金機構「適用事業所と被保険者
厚生労働省「年金制度改正法案を国会に提出しました